Column
コラム
五感が研ぎ澄まされる感覚
オーストラリアを訪れて、強く感じたことがあります。
それは、『五感が研ぎ澄まされる』ということ。
音、香り、手触り、足触り、視界、そして味覚。
すべてが、驚くほどクリアに感じられるのです。
たとえば、海岸を素足で歩く時間。
やわらかな砂の上を一歩ずつ進むたび、足裏に伝わる感触。
波が静かに打ち寄せ、冷たい海水が足元を包みます。
耳に届くのは、ただ波の音と風の音だけ。

ふと遠くを見ると、水平線の向こうにイルカか、あるいは鯨の影。
風の音が強く、会話は自然とかき消されていきます。だからこそ、人は近づき、相手の声を、しっかりと聞こうとする。
目に映るのは、青い海と空、白い砂浜、
そして、目の前にいる大切な人。
それだけで満たされる、心地よい時間。
食事の時間も同じです。
テーブルの上には季節の花。
ふと飛んできた蜂に、思わず声をかける。
誰もスマートフォンを見ることなく、
目の前の食材と、その背景にある物語に意識を向けます。

「これはどこ産なの?」
そんな一言から、会話は広がっていく。
もしそれがアルバニーなら、
会話は自然と西オーストラリアの南端にあるアルバニーの風景へと移ろう。
その土地の空気、自然、人の営み。
まるでそこにいるかのように、想像が膨らんでいきます。
そして、その物語を聞いた後に口にする一皿は、ただの食事ではなく、体験へと変わる。その美味しさは、確実に違って感じられるのです。
朝は、鳥の声で目覚める。
人工的な音ではなく、自然のリズムの中で一日が始まる。

ここには「何もない」のではありません。
むしろ、驚くほど満ち足りた豊かさがあるのです。
このライフスタイルこそ、
五感が本来の力を取り戻す生き方。
そしてそれは、
私たちが本当に大切にしたい“豊かさ”の本質なのかもしれません。
