Column

コラム

2026.06.30

味の奥にあるものを感じて— 感覚を澄ませるという贅沢 —

シェフと会話をしていて、いつも気付かされることがあります。
それは、私たちがまだ辿り着けていない「味の奥の奥」を、彼らは知っているということ。

例えば、オリーブオイルのテイスティング。
ある勉強会で出されたお題は、こんなものでした。

「この一口の中に、6つの味を見つけなさい。」

一見、途方もない問いです。
けれど、静かにオイルを口に含み、意識を集中させると、世界が変わりはじめます。

目を閉じる。
音を遮断する。
外界からの情報を一度、止める。

そして、口の中の感覚だけに神経を研ぎ澄ませていく。

他の感覚が優位である限り、味覚はその奥行きを見せてくれません。
だからこそ、「感じないこと」を選び取ることで、初めて「感じられる味」があるのです。

探るように、ひとつひとつ。

青いバナナのような未熟な甘み。
トマトのような酸と旨みの気配。
シナモンを思わせる微かなスパイス。
草を噛んだときの青さ。
パッションフルーツのような揮発する香り。
そして、わさびのようなかすかな刺激。

それらが、確かにそこにある。

オリーブオイルであるはずなのに。

さらに不思議なことに、目を閉じていると、
どこかで見た風景が浮かび上がることがあります。

例えば、羊たちが走るオリーブ畑。

味覚は、単なる「味」ではなく、
記憶や情景と結びつきながら、立体的に広がっていくのです。

とても静かで、どこか深い時間。

こうして味わう体験を知ると、
日常の中でどれだけ多くの味を取りこぼしているのかに気づかされます。

テレビを見ながら。
スマートフォンに触れながら。

その状態では、本来の味に辿り着くことはできません。

レストランで「美味しい」と感じる理由。
それは、技術や素材はもちろんのこと、
味わうための環境が整えられているからでもあるのでしょう。

味覚は、意識によって変わる。

そのことを知るだけで、
日々の一口は、まったく違う体験へと変わっていきます。

(続く)

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